現代社会では、セキュリティと利便性を高いレベルで両立させるため、顔認証システムへの関心が高まっています。このシステムは個人の顔の特徴をデータ化し、それを用いて個人を識別する技術です。金融機関の認証システムやスマートフォン(以下、スマホ)のロック解除、公共の安全保障など、幅広い場での導入が進んでいます。こちらの記事では、顔認証システムの基本的な仕組み、導入によるメリット、実際にどのようなシーンで活用されているのかをご紹介致します。
顔認証システムとは?
顔認証システムと呼ばれるこの技術は、個人の顔の特徴をデータ化し、識別や認証を行うものです。AI技術などを使用し、高度なアルゴリズムと膨大な顔データに基づいて、個人を迅速かつ正確に識別することができます。この点が、セキュリティの強化やサービスの向上において非常に効果的であるといえます。
顔認証システムの技術・しくみ
様々な場面で利用されるその正確さは、いったいどのような技術や仕組みが用いられているのでしょうか?主に利用される4つの認証技術とそのしくみをご紹介いたします。
顔認証システムの技術
ビジュアル方式(2D認証)
ビジュアル方式(2D認証)は、顔認証技術の中でも最も普及している手法です。この方式は、写真のようなカメラで撮影した顔の静止画像を利用して個人を認証します。静止画像だけを使用するため、特別なセンサーや高価な装置を必要とせず、一般的なスマホ、ウェブカメラに主に利用されています。具体的な使用例としては、スマホやパソコンでのログイン認証機能や、SNSにおけるプロフィール写真に基づく友人の自動タグ付け機能などが挙げられます。
IR方式(3D認証)
IR方式(3D認証)は、従来の2D画像認証よりもセキュリティが高い認証方法です。3D認証技術は、顔の奥行き情報や輪郭などの立体的なデータを利用することで、身元の確認を行うため、単純な写真やビデオを使用したなりすまし攻撃に対して高い耐性を持ちます。例えば、スマホの顔認証機能では、ユーザーの顔を赤外線(IR)カメラでスキャンし、得られた3Dデータをあらかじめ登録された顔データの3Dモデルと照合して本人確認を行います。この技術の導入により、企業や機関は不正アクセスや身元詐称のリスクを減らすことが可能になり、セキュリティシステムの全体的な強化を実現できます。
顔認証システムのしくみ
デバイス完結型
デバイス完結型の顔認証とは、機器自体が顔認証の処理を全て行うシステムのことを指します。この方式は、インターネット接続や外部サーバーへの依存がないため、セキュリティ面での利点が大きいです。また、認証処理の遅延が少なく、高速な認識を実現することが可能です。例えば、スマートロックや一部のセキュリティゲートには、顔認証機能がデバイス内で完結しており、これにより迅速かつ安全なアクセス制御が実現されています。このようにデバイス完結型の顔認証システムは、安全性と速度の両面で非常に優れた選択肢です。
クラウド型
クラウド方式の顔認証システムでは、クラウド上で顔のデータを管理し、リアルタイムでの認証を実現します。この方式は大規模なデータベースが要求される顔認証において、効率的なデータ管理と更新を可能にします。クラウドを利用することで、セキュリティを維持しつつデータアクセスのスピードを保持し、遠隔地からのアクセスも実現できます。たとえば、空港のセキュリティチェックポイントで、事前に登録された顔データと旅行者の顔が瞬時に照合され、スムーズに通過することが可能です。クラウド方式は、大量データを扱う顔認証システムにおいて、効率的で高速な認証サービスを提供します。
顔認証システムの活用シーン
スマホやパソコンでのロック解除や決済
顔認証システムを使ったスマホでのロック解除や決済は、従来のパスワードや指紋認証よりもさらに簡単かつ安全な方法です。顔認証技術は、ユーザーの顔の特徴を利用して認証を行うため、偽装が困難でセキュリティ面での信頼性が高くなっています。加えて、顔をスキャンするだけで認証が完了するため、使用が非常に便利で速い反応を実現しています。具体的な使用例として、iPhone(アイフォン)やAndroid(アンドロイド)のようなスマホ、サーフェスのようなパソコンのロック画面などが挙げられます。オンラインでのショッピング時などのウォレット機能の利用ではパスワードを入力する代わりに顔認証によって決済の承認も可能です。これにより、パスワードの入力ミスや忘れがちな問題を解消し、ユーザーはスムーズな操作を享受できます。
空港での「顔パス」搭乗
空港での「顔パス」搭乗が導入されることで、空港利用者は手続きの簡素化とセキュリティの強化を実感しています。この技術により、搭乗前の手続きにかかる時間が大幅に短縮されるだけでなく、偽造パスポートなどを使用した不正な搭乗のリスクも低減されています。具体的には、旅行者は顔認証システムを利用することで搭乗券やパスポートの提示を省略でき、すぐに搭乗ゲートを通過することが可能になります。システムは利用者の顔を事前に登録されたデータと照合することで本人確認を行い、このプロセスは高速かつ正確です。「顔パス」搭乗の導入により、旅行者はより便利で安全性の高い空港利用体験を享受が可能です。
テーマパークでのアトラクション乗車
テーマパークでは、アトラクションの乗車時に顔認証システムを活用することで、スムーズかつセキュリティの高い乗車プロセスが実現されています。このシステムを利用することにより、来園者は従来のチケットやパスを提示する必要がなくなり、手荷物で両手が塞がっている状態でも簡単に認証を受けることが可能です。偽造や紛失の心配もなく、セキュリティを強化しつつ来園者の利便性も高まります。具体例として、ある著名なテーマパークでは、アトラクション乗車前の待機列に顔認証カメラを設置しています。来園者が事前に顔写真を登録しておくことで、認証時にはシステムが迅速に顔を認識し、瞬時に乗車手続きが完了します。この結果、待ち時間が短縮されるだけでなく、来園者の満足度も向上するという成果が得られています。
工場でのウォークスルー認証
■撮影用に制作した施設を利用しています。■被写体の人物はストックフォトモデルです。撮影許諾を得ています。【モデルリリース:取得済み】
工場でのウォークスルー認証の導入は、従業員の安全確保とセキュリティ向上に大きく貢献します。このシステムは、従業員が工場入口やセキュリティが必要なエリアに入る際、事前に登録された顔データを照合することで迅速かつ正確に身元を確認できるようになります。この結果、従業員はスムーズに施設内に出入りできるようになり、同時に不正アクセスのリスクを最小限に抑えることが可能です。例えば、ある製造業の工場でウォークスルー認証システムを勤務開始時と終了時に使用しており、従業員はIDカードやパスワードを持ち歩く必要がなくなりました。顔認証により迅速な出入りが実現し、勤務時間の正確な管理とセキュリティブレイクのリスク低減が実現しました。
未来型AI無人ストア(スマートストア)
未来型AI無人ストア(スマートストア)では、顔認証システムが利便性と効率性を大幅に向上させています。スマートストアは従業員を配置せずに運営することで、人件費の削減と24時間営業の実現が可能になり、顧客体験も向上します。具体的には、顧客が店舗に入る際に顔認証で身分を確認し、買い物後は同様に顔認証で決済が完了するシステムを採用しています。これにより、レジでの待ち時間がなくなり、ショッピングがより快適になります。このようにして、未来型AI無人ストアは顔認証システムを活用することで人件費の削減と顧客体験の向上を両立させています。
銀行での顔認証(生体認証)
銀行業務に顔認証(生体認証)技術を導入することは、顧客の利便性の向上とセキュリティ強化に大きく寄与します。このシステムを用いることで、従来のIDとパスワードや紙の書類による本人確認手続きが簡略化され、手間を削減できるだけでなく、パスワードや身分証明書の紛失、盗難のリスクを回避し、不正アクセスを阻止する高度なセキュリティを提供します。例えば、いくつかの銀行では顧客がATMでの入出金サービスに顔認証を使用し、カードやパスワードを用いることなく、自身の顔を使って迅速かつ安全に取引できるシステムを導入しています。このような銀行での顔認証技術の導入は、顧客の銀行利用体験を向上させると同時に、セキュリティ面での信頼性を高める効果が期待できます。
顔認証(顔認識)システム導入のメリット
顔認証システムの導入は、企業や施設にとって大きなメリットをもたらします。
身近なケースから意外なケースまで、ケース別のメリットを大きく3つに分けてご紹介します。
①利便性の向上と効率化
無人化により、従業員・管理者・顧客の利便性が向上!
近年、顔認証システムはオフィスや店舗での勤怠管理や入退室管理に採用され、セキュリティと効率性の向上に貢献しています。この技術により、従業員はIDカードや暗証番号の持ち運びや記憶の必要がなくなり、紛失や忘れるリスクが減少します。さらに、自動で出退勤時間を記録することが可能になるため、人為的なミスを削減し勤怠管理の精度と手間を大幅に改善することができます。また、顔認証システムは受付の無人化にも利用され、オフィスや店舗のコスト削減と効率化、サービス向上に寄与します。人件費の削減に加え、24時間対応も叶えられるため、企業の運営コストを大幅に下げながら顧客体験の向上につながります。
②安全安心対策
要注意人物の特定/迷子・徘徊者の発見
顔認証システムの導入により、店舗における迷子や徘徊している人の効率的な検知が可能になります。大型ショッピングモールなどの広い店舗では、道に迷う特に子供や高齢者のケースが発生しやすくなっています。顔認証カメラを活用することで、リアルタイムかつ自動的に特定の人物の検知ができ、迅速な対応が可能になります。例えば、ある大型ショッピングモールは顔認証システムを導入し、来訪者の顔データを入口で登録することで、子供や高齢者が道に迷ってしまった場合にすぐに検知し、所在地を特定。店舗スタッフが迅速に保護に向かうことが可能になりました。このように、店舗で顔認証システムを利用すると、迷子や徘徊する人への対応速度を上げ、安全性を高めることに寄与します。また、顔データを対象者リストに登録した不審者・窃盗・万引き犯に関しても来店を早期に発見することで、お客様と店舗を守ります。金融機関での具体的な活用例としては、不正な取引や詐欺に関与した疑いのある人物を対象者リストに登録し、その人物が支店に入る瞬間に警報を発して即座に対応できるシステム・運用が叶えられます。
③顧客満足度の向上
了承いただいたお客様への特別な顧客対応
顔認証システムを活用すれば、人による対応だけでは難易度の高い特別な顧客対応も可能になります。 このシステムにより、優良顧客リストに登録された重要顧客の来店時には、優先的に接客対応を行う、特別な来店イベントをご案内するなど顧客体験の向上が図れます。 例えば、VIP顧客が来店した際に、購入履歴を確認し、買い替えタイミングや趣味嗜好に合わせて商品をご案内するなど、特別な接客が可能となります。 また、VIP顧客の情報を全従業員が一律に把握することは、お客様がいつご来店いただいても特別な顧客体験をお届けできる店舗として、他店舗との大きな差別化が図れます。
顔認証(顔認識)システムを導入する際の注意点
顔認証システムの導入は事業運営の効率化やセキュリティ強化に大きく寄与しますが、製品選定の誤りや設置環境の見落としが結果的にデメリットとなるケースもあります。特に、製品間での認識精度の違いや、外光などの環境条件による影響を慎重に検討する必要があります。また、プライバシー保護と個人情報の取り扱いに関するこころえ*も大切です。当社では、個人情報保護法を順守しており、お客様にも個人情報保護指針を熟知し、正確なご案内をしております。
以下に製品選定における注意点をいくつかご紹介いたします。デメリットを正しく把握し、より良い運用に繋げていきましょう。
製品によって認識レベルに差がある
顔認証システムを選ぶ際には、その認識精度を重視する必要があります。認識精度が低いと、正当なユーザーを誤って拒否したり、不正なユーザーを許可してしまうリスクが高まります。例えば、セキュリティが厳しい施設での入退場管理に認識精度の低い製品を使用すると、不正侵入のリスクが増加します。適切な認識レベルの製品選定は、システムの信頼性と安全性を確保する上で不可欠です。
環境によって認識の精度が落ちる
顔認証システムの認識精度は、使用する環境に強く左右されます。特に、照明の条件や背景の複雑さは、システムが顔の特徴を識別する上で重要な要素です。理由としては、顔認証技術が顔の特徴点を検出して個人を識別するため、周囲の光量が不十分であったり、背景に動きが多いと、製品によってはシステムが正確な識別を行うことが難しくなるからです。例えば、直射日光のもとでは顔の影が強調されたり、薄暗い場所では顔の特徴が十分に認識されなかったりします。また、背景に人や物が多いと、システムが顔と背景を区別するのが難しくなり、誤認識の原因になることがあります。このような課題を解決し、どのような環境下でも高精度で顔認証を行うためには、導入時に環境を十分に考慮した機器選定・設定が必要です。照明を適切に配備する、設置位置を調整する、高機能なカメラやシステム、その組み合わせを時間をかけて選定するなど、対策を講じることで、認識精度の向上が期待できます。
まとめ
本記事では、顔認証システムの基本概念から、技術的な仕組みに至るまで、活用までを解説してきました。ビジュアル方式とIR方式の違い、デバイス完結型とクラウド型についても触れ、顔認証システムが持つ多様なメリットと、実際の活用シーンについてもご紹介しました。この技術は、セキュリティの強化、利便性の向上、データ管理の効率化など、さまざまな場面での活用が期待されています。
もし、あなたの組織や事業で顔認証システムの導入を検討しているなら、今回ご紹介した情報をもとに、ニーズに合ったシステム選定や導入計画を進める良い機会かもしれません。専門のコンサルタントに相談することも一つの手段です。
技術は常に進化しています。今後、顔認証システムはさらに高精度化され、活用できるシーンもさらに広がることが予想されます。セキュリティと利便性を両立させるための最適なソリューションを見つけるため、最新の技術動向に目を光らせておきましょう。
*個人情報の取り扱いに関して
国の指針
犯罪予防や安全確保のための顔識別機能付きカメラシステムの利用について 資料一覧 |個人情報保護委員会 (ppc.go.jp)
業界団体としての指針
:: 日本万引防止システム協会 :: (jeas.gr.jp)
高千穂交易は、「認定個人情報保護団体 対象事業者」です
20200930-8.pdf (jeas.gr.jp)